さて、前編からの続きとなりますが、若い人に対して投票権を重みづけして割り振ると何が起きるでしょうか。
まず、今回の選挙で言うと自民党が圧勝することになります。(ようやく前編冒頭の前振りにたどり着きました。)
日経新聞の記事が読めない方には申し訳ないのですが、2つのリンクを見ていただくとすごく良く分かると思います。
2014年までは高齢者が自民党に多く支持していましたが、2017年、2021年は若者が自民党に多く投票し、高齢者を上回る結果となっています。
また、男性が自民党を支持している傾向にあります(これは昔から変わらず)。
これこそがアベノミクス政策の結果そのものだと思います。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000255967.pdf
(世代別投票率傾向)
出口調査は過去の世代別投票率の傾向からサンプルの重みづけをするはずですので、今回、出口調査の結果が大きく外れた(開票結果は自民党が伸びた)ということは、コロナの影響もあって高齢者の投票率が低くなり、逆に若い世代の投票率は伸びた。
そんな仮説が出来ます。
さて、アベノミクス政策がなぜ20代、30代、そして男性に人気だったか。
それは、これから稼ぐ人に有利な政策を徹底したためです。
アベノミクスの金融緩和政策は、単純なインフレ誘導政策でした。
また、法人の資金需要を徹底的に支え、雇用を最大化させる政策でした。
インフレ政策は、過去の借金を棒引きしてくれることを意味します。
逆に現金同等資産に対してはインフレ税という形で徴税する仕組みです。
インフレは、これから稼ぐ人たちには、どちらかと言えば有利な政策であると同時に、資産形成を終え、今後は消費する人たちにとって脅威となります。
若者は、これから稼ぐお金を担保に借金をしてマイホームを買うことができます。
もしインフレが起きれば、借金元本は価値が縮減していきます(固定金利であればより効果的)。
もともとまだ資産形成は出来ておりませんので、インフレ税によって徴税されるものはありません。
また、インフレは雇用を増やすので、これもこれから働く若者にとってうれしい政策です。
法人にとってもインフレは有利です。
法人は基本的には永遠の時間を持っています。
経営に失敗し、または後継者を失って清算することはありますが、原理原則としては人間のような『寿命』があるわけではありません。
こういった、将来にわたって長く稼ぐことができるヴィークルにとって、インフレは大変ありがたいです。
コーポレートファイナンスで借金を増やし、設備投資を行って、インフレが起きれば借金は減価し、生産設備のみバランスシートに残る。
その設備が生み出す製品はインフレ後の価格で売れるので、利益は倍増する。
利益が出るため、さらに借金を増やして事業を拡大し、『雇用』を増やす。
固定金利で借金することが主な法人にとって、インフレは極めてハッピーです。
さて、もう一つ借金体質で、最も長い寿命を持ったヴィークルがあります。
『国家』というヴィークルです。
国にとってインフレは自分の借金を棒引きし、将来の収入を増やす(物価が上がるので、消費税や所得税、法人税、相続税などの税収が上がる)効果があります。
国家にとってもインフレの加速はハッピーシナリオです。
だから、デフレ脱却と言い続けているわけですが・・・。
さて、インフレは良いことばかりのようですが、極めて不利な人がいます。
資産形成を終え、今後は蓄積した資産を切り崩して消費していく高齢者です。
自分の資産をどのような構成で持つべきか、という教科書的なものに、若いうちは株だけでいい。50代になったら現金等資産の割合を少しずつ増やし、70代になったら現金等資産の割合を半分以上にするとよい。
というものがあります。
株は現金等資産(定期預金など)に比べて、収益性は高いですが変動リスクも高くなります。
すぐには資金を必要としない若者は、株で持っていれば40年後、50年後に少なくとも定期預金にしているよりも多くの資産を形成できるが、70代になって、今月の生活費を卸そうとしたときに、リーマンショックのようなことが起きて株価が半分になってしまった。みたいなことが起きるとその後が苦しい。
そのため、高齢者になれば現金等資産の割合を次第に増やしていきなさい。そういう一般論があります。
高齢者は、どうしても現金等資産で自己資産を保有する割合が多くなります。
さらに、日本人は現金での資産形成率が極めて高い。
インフレ政策は、この団塊世代の現金資産を狙い撃ちした政策に他ならないわけです。
そのため、高齢者の自民党支持は以前ほど高くなく、替わりとして若者の支持率が上がったという訳ですね。
(働く世代に指示が広がったということは、相対的に就業率が高くなっている男性に指示が多かった理由にもなります)
ちなみに立憲民主党や共産党のような、法人よりも個人所得と個人消費を守る政策は高齢者に有利となります。
法人には不利な政策が多く、これから稼ぐ世代には苦しいが、消費者には優しい政策なので、今の資産で暮らす人には有利となります。
本来なら高齢者は、立憲民主党を支持するはずです。
(女性が男性よりも立憲民主党を支持する傾向があったのは、消費者としての目線が強かったからかもしれません)
さて最後になりますが、若者を中心に票の重みを付けてはどうか?という前編の私の提案に対して、私が反論するとすれば下記のようになります。
若者は、短期的な思考になることがありと、ややもするとそれまで維持してきた社会制度を一度清算することを望む傾向も見え隠れする。
アベノミクス政策は、たしかにこれから稼ぐ世代、ヴィークルにとっては有利な政策だが、今までの借金(コインの表裏一体の関係として現金等資産)を一度チャラにしてしまおうということが狙いの政策でもある。
高齢者がアベノミクスをそれほど支持せず、若者がアベノミクスを支持するという傾向は、その政策の本質を理解できるほど、若者に知識や経験の蓄積が出来ていないということもあるかもしれない。
やはり、ある世代に恣意的に重みづけした票を与えるということは、問題があるな・・・。と。
合計特殊出生率が2を切る民主主義国家で、1人1票の投票権である以上、高齢者に有利な再配分となるシルバー民主主義は仕方ないのかもしれない。
高齢者が幸せであるということは、いつか自分達も幸せになれるという証でもある。
以上