『スマホを捨てたい子どもたち』という山極先生の本が大変に面白かったのでご紹介します。
スマホを捨てたい子どもたち: 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方 (ポプラ新書) | 寿一, 山極 |本 | 通販 | Amazon
現在のホモサピエンスの脳で管理できる人間関係は100人~150人が限界。
700万年前にチンパンジーと分岐した人間は、直立二足歩行を採用したことで、手で感情を表現できるようになり、集団サイズを大きくしていくことができた。
言葉が発達し始めたのは今から7万年くらい前からであるが、言葉はあくまでも集団の中での紛争解決手段として生まれたものであって、信頼関係構築手段として発達したツールではない。
SNSでつながっている相手は、脳の管理できる(信頼関係を築ける)集団サイズを圧倒的に超えている。
ICTは、信頼関係が築けている相手との関係維持には役立つが、知らない者同士の新たな信頼関係構築には役立たない。
人間が相手を信頼できるようになるのは、行動を共にした(同調)経験が必要。
社会活動やスポーツなどで同じ場所で同じ目的を共有した相手とでなければ、信頼関係は生まれない。
SNSに費やす時間は、リアルな世界の地元コミュニティに参加する時間を奪う。
現代の人間にとって一番大切なことは、『供食』であり、食べ物を『誰と』共有しあい、一緒に食べるかは、サルの集団行動の中で最も重要なファクターの一つ。
1人で、短時間に、サンドイッチやおにぎりなどをさっと食べることは、人間の漠然とした不安、社会に対する信頼感の欠如、自分に対する肯定間の不足につながる。
など。
もっと面白い内容がたくさん書かれているのですが、私の本日紹介したいテーマの切り口では、そんな話が書いてありました。
もう一つ、日経新聞の記事からですが、慶応大学の前野教授の執筆で、
「幸せな人は不幸せな人よりも寿命が7~10年長い」
「『健康に気を付ける』ように『幸せに気を付ける』時代が来た」
「様々な研究で、幸せな心の状態にあれば、人は利他的になり、創造性が高まり、生産性が高まるなどの効果があることが知られています。逆の因果もあり、利他的で創造性・生産性が高いと人は幸せになります。」
という研究紹介がありました。
われわれ『街づくりの専門家』としては、とても重い街の課題だと思いました。
街のコミュニティは、今若い人、現役世代の参加を求めています。
町内会などの自治組織にしても、民生委員などの地方自治体の末端組織にしても、街に対して今まで出来ていたサービスの継続に苦慮しています。
一つは、都市部で『共働き』が当たり前になったことが挙げられます。
昭和の地元コミュニティの担い手となっていた『専業主婦』という存在は、今では少数派です。
また、昔は自営業の方、住んでいる場所で商売をされている方の比率が多かったですが、今では夫婦ともに会社員、住んでいる場所と働いている場所は全く別の場所で、住んでいる場所には平日日中ほとんどいない。という家庭が増えています。
地元コミュニティの組織は、未だに『専業主婦』『自営業』を前提とした昭和の組織が残っているが、現役世代は『共働き』『会社員』という状態では、現役世代の地域コミュニティへの参加は困難なまま。
結果として、地元コミュニティは、70代、80代の現役を引退された方と、30代40代のころから『専業主婦』として地元コミュニティを支えていただいた方々が、60代70代になられている状態。
「昔は『婦人会』もしっかりしていて、みんなでいろいろな活動をしていたんだけどね。今はみんな働いているから、婦人会も解散しちゃったしね。」
町内会の会合でも、よくこういう話を聞きます。
必要なのは、『婦人会』という組織を作り直すことではなくて、現役の共働き会社員たちが入りやすいコミュニティづくり、組織作りです。それが求められています。
例えば、私が担っている班長業務の大きな負担の一つは町内会費の集金。
3ヶ月に1度、班長が各家庭を回り、町内会費を集めます。
留守宅には何度も伺うことになります。
最初は「町内会の口座に自動引き落としにすればよいのでは?」と提案しました。
しかし、町内会はあくまでも任意団体なので、会費の自動引き落としは如何なものか・・・。という意見もあります。
「それでは、各自の振り込みにしてはどうか?」と提案すると、「各自の振り込みにすると、集金率が悪化する。」という話も出て、結局、各家庭戸別訪問の集金スタイル。
班長にかなりの負担となります。
しかしこれはこれで、オールドファッションですが良い効果もあります。
集金に回ると各家庭の近況を聞けます。
息子に孫が出来たけれども、地方都市に住んでいて、新型コロナウイルスが怖いので東京には来られず、SNSで送られる動画ではいつの間にか歩くようになっている。
⇒ なるほど、地方に息子さんとお孫さんがいらっしゃるのだな。
とか、
「1ヶ月ずっといらっしゃらなかった(集金に行ってもずっと留守だった)ですが、何かありありましたか?」
と聞くと、
「娘に子供が生まれたので、1ヶ月間娘の家へ手伝いに行っていました。」
⇒ おめでたい話で良かった。
とか。
班長として把握しておくべき地元の状況が定期的に入ってきます。
おめでたい話も、お悔やみの話もいろいろとありますが、『まったく知らない』ではなく、近隣の家同士、なんとなく状況を共有できる場が持てる町会費集金という営みは、効率的ではないのだけれども大切なポイントかもしれない。
とも思います。
でも、これができる現役の会社員はどれくらいの割合でいるでしょうか・・・。
私のような『街づくり』を仕事でもやっている者としては、このコミュニティの大切さを痛いほど知っています。
しかし、ほとんどの現役世代は、現在のところ現役を引退された方々が何とか運営している地元組織にフリーライドです(私の町会では、町会費を払ってくれる家庭が5割を切っています)。
できれば、お金も、その人の時間も、地元コミュニティに提供してもらいたいのですが、なかなかそこまでの協力は得られません。
私は賃貸住宅の住民なので、このエリアの風紀が乱れ、治安が悪化すれば、より良いエリアへ引っ越すだけですが、資産として土地建物をお持ちの方が、地域のエリア価値を高めるためにもう少し積極的になられてもいいのではないか?
そんな風にデベロッパーとしては思ってしまいます。
日本人は、家を『買う』ことには必死になるのに、家の『資産価値を高める』ためにはあまり努力しないんですよね・・・。
日本は、個人資産に占める不動産投資の割合が世界の中で圧倒的に多いのに、なぜかその不動産への継続的な価値向上施策には興味が薄い。
不思議なんです。
話が脱線しました。
最初のテーマに戻ります。
今の現役世代も、リアルな世界のコミュニティが面白ければ、SNSの世界よりも人と交わるリアルな世界に時間を割くようになると思うのです。
なぜその確信があるかというと、WEB会議でいくらでも仕事が成立するのに、みんなオフィスに出たがるという状況を現在目の当たりにしているからです。
人は、ワンルームマンションでパソコンに向かってしゃべっていても、さみしさは解消されないようです。
オフィスでみんなと和気あいあいしゃべり、昼食を食べる。こういったことが必要みたいです。
もし現役の若手や子育て世代が取り組みやすい地元組織が作れれば、参加する側も『利他的な活動』に自己満足度を高めることができ(幸福度UP)、後継者不足に悩んでいた地元コミュニティ側も若返りに成功できます。
地元に知り合いが増えれば『何かあった時に誰かが助けてくれるという漠然とした安心感(山極先生の本のキーワード)』が心の中に生まれ、人々は前向きに社会を見ることができるようになれます。
WINWINの関係が作れるはずなのに、今のところは解決策が見いだせていない。
街づくりの大きな目標として、共働き現役世代が参加しやすい地元コミュニティの組成。
これを考えていきたいと思っています。
以上